四話 1/2
四話 少女と少女達




錬「まだなの〜?」



稲瀬「もうちょっとよ。」


歩いて何時間になるだろうか。
今日は特に暑い。
地面からは陽炎がでていて見えない炎のようだ。


錬「それよか幻想郷って
どうやって行くのよ?
徒歩で行けるとは思えないんだけど。」



稲瀬「それはクロちゃんが何とかしてくれるわ。
その前に妖月館(ヨウゲツカン)に行くわよ。」



錬「何よそれ。」



稲瀬「妖艶なる月下の館、略して妖月館。
クロちゃんの館よ。」



やがて大きな一本の石柱が見えてきた。
稲瀬はピタッと止まる。


稲瀬「到着〜。」



錬「いや、柱しかないんだけど。
その館は地下にでもあるの?」



稲瀬「まあ、いい線だけど違うわ。
その内わかるわよ。
休憩しましょう。」


もう日が暮れるくらいの
時間になってしまった。

今日は昼間に稲瀬が
分けてくれた、なんでも
『空腹を紛らわす赤玉』
とかいう怪しいものを食べさせられてから、確かに
空腹は紛れたものの、
やはり食事なしでは体力的にきつい。

錬はパタリと柱に寄り掛かった。



錬「もうそろそろ月が出てくるわ。」



稲瀬「そうね、今日は三日月だったかしら。
しばらく干渉に浸っていましょう。」


やがて月は出てきた。
稲瀬の言ったとおり、それは細い弧を描いた三日月だった。


稲瀬「綺麗ね。」



錬「そうね。
一時間くらいならこのままでいいけど、いい加減お腹が空いてきたわ。」



稲瀬「後ろ、見て御覧なさい。」



錬「何?
そういう展開なの。

って、うわっ!?」



錬が後ろを向いたとき、
そこには妖月館がたっていた。
錬は『魔術師の館』という認識があったから、大方の予想はしていたが、それがあまりにも目と鼻の先にあったのと、あまりの館の大きさに驚きを隠せなかった。



稲瀬「予想以上みたいね。」



錬「ええ、これは素直に驚くわ。
一体どういう仕組みよ。」



稲瀬「妖月館は月下の館。月の出るときにしかこの
世界には存在しないわ。」



錬「この館が半透明に見えるのは、今日のは三日月だから?」



稲瀬「ご名答。
月の照らす光の量で館の
存在度が決まるわ。
さ、疲れたことだし中へ入りましょう。」





妖月館を外から見たときは半透明であったドアや壁も、内から見ると案の定そんなことはなかった。

ただ、建物の巨大さは外と同様、内には広いホールやずらりと並んだ窓ガラスが200m近く続いていた。



「戻ったか。」


急に中央の広い階段の上から声が聞こえてきたので、錬はびくっとして階段を見る。



稲瀬「ええ、錬を連れてきたわ。」



錬「どなた?」



「すまん、客人を迎えるのは慣れていなくてね。
自己紹介が先だな。」


その人の髪の毛は紅く、真っすぐなポニーテールだった。
服は白のワイシャツに黒のズボンを着用していた。



「私の名はアレイスター・クロウリー。ここの館長だ。
名前はどうも呼びずらくてね、館長と呼んでくれればいい。
以後よろしく頼む。」


クロウリーってことはこの人が稲瀬の言うクロちゃんか。


錬「私は錬よ。
とりあえずこの汚い体で
この館を汚してしまうのは嫌だわ。
お風呂かなんか貸してくれると有り難いんだけど。」



アレイスター「それはすまなかったな。
やれやれ、私にはどうやら人をもてなすという精神が欠けているらしい。」



錬「気にしないで。
私も言いすぎたわ。」



アレイスター「お互い、多少疲れがたまっているようだ。
稲瀬、錬を大浴場まで案内してやってくれ。
まだ書き終えてない書類が残っていてね、3時間後に食堂で会おう。」



稲瀬「わかったわ。
クロちゃんもあまり無理はしないでよ。」


心配している稲瀬とは裏腹に館長はフッと鼻で笑う。


アレイスター「そうだ思い出した。
お前だけはいつになっても私を上から見ていたな。」



稲瀬「まだ半年しか経ってないわよ。
また『記憶の一部』を使ったのね。」



アレイスター「大丈夫さ。
さ、お前も疲れてそうだ。さっさとお行き。」



館長はそう言い残して自室に戻っていった。


稲瀬「とりあえず行きましょうか。」



大浴場は館の南側に設けてあった。
錬は目覚めてから一度も
風呂に入ったことはなかったが、『風呂』という記憶はかすかに残っていた。



錬「風呂とか割とどうでもいい記憶ほど残りやすいものかしらね。」



稲瀬「割とどうでもいい
記憶ほど大切な場合もあるわ。」



錬「…。」






カポーン。


錬「外から見たときは露天風呂なんて見えなかったけど、これも魔術なの?」



稲瀬「そ、ただ単に壁を
透明にしてあるだけなんだけどね。」



錬「それでも綺麗だわ。
これなら疲れもぶっ飛びそう。」



稲瀬「それはよかったわ。
背中、流してあげる。」


錬はとっさに答える。


錬「い、いいわよ。
それくらい自分で出来るわ。」



そんなことはお構いなしに稲瀬は錬の背中を流し始める。


錬「ちょっ、稲瀬っ
こらっ。」


当然稲瀬は慣性を無視しているため錬の抵抗は及ばなかった。


錬「も〜〜。」


錬は恥ずかしながら抵抗するのをやめた。

まだ湯に浸かる前なのに
顔が熱くなるのを感じる。


稲瀬「今くらい甘えときなさい。
もう貴方は独りじゃないんだから。」



錬「・・。」


錬は稲瀬に対して何も言えなかった。
それは恥ずかしかったからなのか、それとも嬉しかったからなのか。



錬「ありがと…。」



稲瀬「ん、どういたしまして。」









二人は湯船から月を見ていた。


錬「ねぇ稲瀬。」



稲瀬「ん?」



錬「さっきの館長との会話で出てきた『記憶の一部』って何なの?」



稲瀬「…そうね。
正直貴方には聞かれたくなかったわ。」



錬「怒ったりしないわ。
話してほしい。」



稲瀬「…クロちゃんはね、世界と契約したいのよ。」



錬「続けて。」



稲瀬「クロちゃんみたいな純粋な魔術師はね、自分にとってのゴール地点みたいのが存在するのよ。」


稲瀬「多くの魔術師は
『真理』を知りたがっている。
クロちゃんもその一人。
彼女が知りたがっているのは『この世の真理』。」



錬「真理…。」



稲瀬「真理については後でクロちゃんに直接聞いて。これ以上の説明は私には
難しいわ。


クロちゃんはね、自分の
『記憶の一部』つまり、
歴史の一部の中に真理に
繋がる鍵があると仮定しているの。」





錬「つまり、自分の過去を犠牲に研究しているのね。」



稲瀬「自分の過去を欲している貴方とは正反対、彼女は未来にしか興味が無い。」



錬「フフッ。」



稲瀬「…?」



錬「ちょっとだけ似ていると思ってね。」



稲瀬「貴方とクロちゃんが?」



錬「さっき館長も疲れているようだったけど、あれは研究そのもののせいじゃないわ。
過去を失ってるからよ。」



稲瀬「貴方も疲れてるの?」



錬「過去が無ければ未来は形成できない。

私も目覚めたときは自己が確立できなくてとても不安定だった。
無駄に疲れ、無駄に寒気がして、無駄に怖くなる。

でも、今の私には2年間と今までの過去がはっきりと存在していて、私も自分というものが段々に解ってきている。」



錬「賢者の石を早く見つけて、館長にこれ以上過去を犠牲にさせないようにしよう。」



稲瀬「前向きね…。」













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