一話
一話 少女と和服の少女




幻想郷― 
妖怪や神などが共に暮らす理想郷。


「そんなところが本当にあんの?」


少女の名は錬(レン)。


廃れた炭鉱近くのスラム街に暮らしていた。


親と兄弟を知らず、ただ本能に従い 「生きる」 ことだけを考え生きていた。


人々はその姿を
「ハイエナの子」と気味悪がって近寄らなかった。




「私はハイエナよ。」

「ただ貪欲に生きたいの。」


その泥と炭に包まれた顔にそっと手をふれもう一人の少女が口を開く。


「あら、ハイエナは群れで生活するものだと聞いてたけれど…」

「貴方それじゃはぐれた
オオカミじゃない。」



錬はその手を払いのけ、
近くにあった小石を拾い叫んだ。


「うるさい!!」


彼女の顔面めがけて小石を投げつける。


とたんに錬は唖然としてしまった。


限りなく普通の人間であるならば、
顔面に至近距離からのデッドボールを食らいたくないものだ。


投げつける行為がわかった瞬間に人間の本能というヤツはまず目を守りたがる。

つまりまぶたが次の瞬間には塞がっているわけだ。


ところがなんだコイツは?

顔面に小石が当たったにもかかわらず、
目はしっかりと開きこちらを向いたまま、
しかもそれに対して全く動じてないというか…
まず痛がってすらいない。


「おかしいわよ!」

「だって…」



喋ろうとする錬の口を人差し指で軽く塞ぐ。


「証拠よ。」



「証拠?」


その少女は転がっている
コンクリのブロックに腰掛け話しはじめる。


「そう、証拠。」

「こんな私みたいのがゴロゴロしてるのが幻想郷よ。」



「じゃあ妖怪…なの?」



聞かれて少女はクスクスと笑う。



「ゴメンなさいね、自己紹介がまだだったわ。」

「私は望月稲瀬(イナセ)。」

「妖怪というよりはどちらかというと人間寄りかもしれないわね。」


意味がわからない。


「何よそれ。」



「私達は鬼と人の間に生まれた、そうね、半人半鬼ってトコかしら。」


鬼だって?もうワケが…。

「でも鬼としての能力は
ほとんど薄れてきてるし
顔も体も若い人間そのものよ。」


稲瀬は人間に例えるなら
なかなかベストなボディ
バランスをしていて、
さらに細かく説明すると
日本の和服を着ているためとても可愛らしく、
錬はなかなか目をそらせずにいた。


「それでも顔面に石投げられて平然としてるだけの能力は残ってるじゃない。」

稲瀬は横に手を振り、


「あれは私の人間としての能力なのよ。」

「私の母は魔術師でね、
その時の魔力がそのまま私の体に受け継がれているのよ。」

「有する能力は、
『慣性を無視する程度の能力』よ。」



「かんせい?」



「そう、慣性。」

「物体は運動をしている時、急には止まれないし、
止まり続けているときは、急には動けない。」

「つまり私はさっき、貴方の投げた石の慣性を無視したの。」



「じゃあ石は当たってなかったの?」



「そういう事。」

「貴方の驚いた顔がなかなか魅力的だったわ〜。」


稲瀬は口に手を当てまた笑う。

なんだか錬はさっきまで
イライラしてたことが恥ずかしくなってきた。



気持ちを紛らわそうと辺りを見渡す。

空には満月が雲から見え隠れしている。


「とりあえず、あんたのことは一通りわかったんだけれど一旦休憩してご飯にしてもいいかしら?」

「今日はまだ何も食べていないの。」



「ええ、ごめんなさい。」

「私も急に出てきて驚かしてしまったわね。」



全くだ。
こんな暗いところに少女が笑いながら歩いて近寄ってきたら警戒もするわ。



そんなことを思いながら
錬は昼間にここから離れた一軒家からくすねた生の豚肉を取り出す。


錬はとっさに稲瀬の方を向き、「あんたの分はない…」と言おうとすると、稲瀬はそれを察して、

「お構い無く。」

と、またコンクリに腰掛けるのであった。



とっさに今度は稲瀬が質問する。


「貴方まさかその肉、生で食べる気じゃあないでしょうね。」



「安心して。」

「何度か生で食べて死にかけたけど、もうそんな失敗はしないわ。」



そう言うと錬は立て掛けてある鉄板を取出し、集めた木片や炭を下に敷く。



「何で稲瀬は私を幻想郷に連れていこうとしてるの?」



「私はその質問には答えられないわ。」



「…?」



「私はクロちゃんに頼まれてきただけなのよ。」

「クロちゃんっていうのはとある魔術師ね。」



「また魔術師か。」

「魔術師なんかがいったい何のようなのよ?」



錬はそう言うとおもむろに何か白い固まりを2、3個木片の上に並べ、その上に手を重ねて力をこめる。


ボウウッ!!!



「なっ!?」

「貴方今何をしたの!」


錬が力をこめたとこから炎が出たのである。


「驚いた?」

「これは東の町で手に入れたの。
魔法の石って呼んでるけど。」



そういって錬は肉を焼き始めた。


魔法の石。
この世界にはそんなものがあるの?

気になった稲瀬はその白い固まりを1つ取り出す。


「…ちょっと、これただの塩じゃない。」



「そんなっ、違うわよ!」

「ちゃんと確かめて。」



「ほら、舐めてごらんなさい。」



錬は一口サイズのものを渡され口に入れてみる。


「しょっぱい。」



やっぱり塩ね。
でも何で塩なんかから炎なんか出たのかしら…


「塩化ナトリウム―。」


稲瀬はもう一度塩の固まりを取り出す。


「さっきのをもう一度やってくれないかしら。」


錬は軽くうなずき、その塩の固まりに手を伸せ力をこめた。


ボウウッ!


見えたのは黄色い炎だった。
やはりこれは―

「炎色反応ね。」



「炎色…何よそれ?」



「その前にそのお肉、とったほうがいいわ。」


少し焦げ臭い。
あっ、と気付き火を消す。


「食べ終わってから話すわ。」


稲瀬はそう言うとまた腕を組んですわってしまった。


久しぶりの肉の味なので
焦げているところも気にせず、
錬は地上で食べる最後の料理を味わっていた―。

















「望月稲瀬」
鬼と魔術師の間に生まれた子。
慣性を無視する程度の能力。
普段は和服を着用。
おしとやかな性格をしている。
それは戦闘の時においても変わることのない自分を貫き通す心のあらわれ。
実は妹がおります。
また出番が来るまでお待ちください。











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