二話
二話 少女と能力(チカラ)




「美味しい?」


うん。
と錬は首を振る。


「・・・。」

「稲瀬。」


錬は一度食事をやめる。


「何?」


「…ゴメンナサイ。」


あ〜あ。

「あの小石のことかしら?」

錬はうなずく。


「気にしないでちょうだい。」

「先にからかった私が悪かったし、当たってないから大丈夫よ。」


錬は稲瀬の方を向き、


「それでも私は稲瀬に石を投げたの。軽くだけど殺意だってあったかもしれない。だから顔面を狙ったの。」

「私は…」



「ありがとうね。心配してくれてるの?」



「別にそんなんじゃない。ただ…」



「自分が犯した行為に対して素直に謝ることはとてもいいことよ。」

「貴方は今正しいことをしている。」



「そんなんじゃない。」

「ただ謝らないと胸がもやもやして…」



ビシッ!

「痛っ!」


稲瀬のでこピンがヒットした。


「何よ?」


「これでおあいこよ。
お肉、冷めるわ。」


仕方なく錬は勢いよく肉をたいらげた。







「そうね、まず貴方の能力について話すわ。」



「私の能力?」



「貴方はさっき魔術を使ったの。」



「魔術?私が?」



「ええ、それも錬金術の
部類にあたるわ。
なるほど、クロちゃんに目を付けられるわけね。」

「さっき言ったけれどその白い固まりは魔法の石なんかじゃない、紛れもない
ただの塩よ。」

「この世界の物質はね、およそ百何種類の元素で全て成り立っているの。」

「水も、空気も、貴方が
食べたお肉でさえもね。」


錬は、聞き慣れない言葉が次々と出てきたにもかかわらず、そのおおよその内容は理解できていた。



「そしてこの塩。
分解するとね、ナトリウムという金属と、塩素という気体が出てくるのよ。」



「分解?」



「簡単に言うとね、」


稲瀬は地面に簡単な絵を描く。


 ○−● → ○ ●
 

「左が塩よ。こうやって、そうそうこの左の○が
ナトリウム、右の●が塩素で…。」


見たことも聞いたことも
ない化学の知識が一方的に頭の中に入ってくる。

だが不思議だ。
何の違和感もなく、
その知識を受け入れられる。

むしろ、それは少し物足りないくらいだ。


「ふーん、
でもそれだけじゃ火は出ないよ。」



「貴方は火を起こしているときに何かを感じなかったの?」


錬は自分の手を見つめる。

「…そういえばあの塩に
空気が流れ込むのを感じたわ。」



「そう、それは酸素よ。」



「酸素…。」



「基本物質が燃えるときはこの酸素が関わってるわ。つまり、
貴方は塩をナトリウムと
塩素に分解して、残った
ナトリウムに酸素を化合させた。」

「ナトリウムは金属の中でも特に燃えやすい性質でね、その証拠に黄色い炎が
出てきたけれど、あれは
ナトリウム特有の炎色反応なのよ。」





「知りたい…。」


錬は好奇心で満たされていた。


「もっと知りたいわ!
次は何を分解すればいいの?」


ストップ!と
稲瀬は錬を落ち着かせる。


「わかったわ。ある程度の知識は与えてあげる。
その代わり、貴方には自分の能力をもっと自覚してもらう必要があるの。」


え?と錬は首をかしげて
質問する。


「魔術が使えるんじゃないの?」



「大きな力には大きな責任が伴うものよ。」


稲瀬は急に険しい表情を
見せる。


「貴方の魔術、つまり錬金術なんだけど、動作が大きく分けて2つ存在するわ。」

「1つは分解、もう一つは化合、もしくは結合とよばれているものよ。」



「分解が外すことで化合がくっつけることよね。」


錬は復習の意味も踏まえて稲瀬に質問する。


ええ、と稲瀬はうなずく。

「よく聞いてちょうだい錬、塩化ナトリウムという物質はね、そう簡単に分解できるものじゃないのよ。」


稲瀬は続ける。


「つまりね、何の触媒も無しに塩化ナトリウムを分解するにはかなりのエネルギーが必要になるんだけど…。」



「私の場合は平気でやってのけちゃったわけね。」



「正直に言うわ錬、
貴方の分解エネルギーは
神をも脅かす能力(チカラ)よ。」


物質の強制的な分解―。

それが有機物であれ無機物であれ関係ない。

そう、
例え人間だったとしても。


錬の背筋に悪寒が走る。

耐え切れずその場に
うずくまってしまった。



「…こんな話をするつもりじゃなかったのだけれど、ごめんなさい。
でも理解はしてほしい。
その能力を持って生まれた以上、それを生かすも殺すも貴方次第。
神になるも悪魔になるも
貴方次第。
貴方はこれからそのチカラと上手く付き合っていかなきゃならないわ。」


錬はまた両手を見つめる。
今まで軽く動いた腕が、
急に重りがぶら下がった
ように重く感じる。



ひどく寒い―。


「もし私がこの腕の重みに耐え切れなくなって、全てを投げ捨てたくなったら、もしこの寒気がいつまでも退くことがなかったら、

…私は私を保てなくなる気がするの。
どうしたらいいの、稲瀬?」



稲瀬はやっと表情を緩め、すっと近付き、額をあてる。
ぼんやりと詩が聞こえてくる。




―当たり前にすぎてゆく日々なのに―


―今を想える気持ちを貴方がくれたから―


―どこまでも続く道を―


―歩いて行ける気がする―





錬はしばらく目を閉じていた。











「錬」
スラム街のハイエナ。
呪われた錬金術師。
魔術を扱う(主に錬金術)程度の能力。
現世に生きる17歳くらいの少女。幼い頃の記憶が曖昧で、自分が何時から、何故一人で生きているのかを
知らない。
たまたま街で盗んだ岩塩を魔法の石と思い込み、火種がほしいときはその岩塩を無意識に錬成(火を点けて)していた。 
金属が関わるものを錬成するのが得意だが、何よりも物質を分解する能力は
神(世界)をも脅威にさらしかねない程である。
この物語の主人公。
服装は作業用のつなぎを着用、髪はショートの紫。
後は御想像にお任せします。
















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